2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

twitter

ねこちか


picture pieces

  • 手作りシュシュ 6
    日々のカケラたち

好きだ!


  • 笑うかのこ様 1 (花とゆめCOMICS)

« 蓮の華の下で睡る | トップページ | 君の唇に甘露は落ちて »

2016年7月16日 (土)

若紫

twitterで呟いた「やつがれちゃんはだざいさんの紫の上」ネタでございます。
一度最後まで書き上げたものを保存に失敗し消してしまい、ショックを受けながら書き直しました。
pixivにアップ済み。

若紫

転がる薬莢、硝煙でくすぶる視界、そして血の匂い。
港近くにある古い倉庫の中、高い天井に据え付けられた僅かばかりの蛍光灯に照らされた数十人の人影。そのうちの二十人程は床にまばらに散らばっていた。
床に伏せている中にはうめき声と共に微かに身体を動かしているものもいるが、ほとんどがピクリとも動かず沈黙している。
話し声はない。ただ複数の人間の足音だけがカツカツと響くだけであった。

「息のあるものは?」
長身の男が傍らに立つ部下らしき人物に声をかける。黒い蓬髪に黒い外套、黒い背広に黒い靴、身につけているもの全て黒く闇に紛れてしまいそうな中、身体のところどころに巻かれた包帯の白さがその存在を主張していた。
ポートマフィア最年少幹部太宰治である。

「六人です」
聞かれた男は簡潔に答えた。倉庫内ではその他の構成員たちが声もなく動き回っている。
「まあまあだね。しかし、ポートマフィアの荷を横流しして小銭を得ようだなんて、バレないとでも思ったのかねぇ」
太宰はつまらなそうに呟いた。地面に広がる血の海に浸されている二十人余りは仲買人の一部で、太宰が言ったようにポートマフィアの扱う武器弾薬の商品をちょろまかして私益を肥やそうとしたものたちである。情報を得た太宰たちは制裁を加えに足を運び、仕事を為果せたところであった。
「生きてる者は拠点に運び尋問を、死んでるものは他にも馬鹿な事を考えているやつらに見えるようにしておいて。商品は丁寧に仕舞っておいてね」
太宰はそのように指示を出すと「私はもう帰るから」と相手に背を向けて歩き出した。

倉庫の入り口近く、指示通りに動く構成員たちとは距離をおいたところに小さな影を目にする。はじめぼんやりと立っていたその影は太宰が近づいてくるのを確かめると姿勢を正した。
「終わったよ、芥川君」
太宰に呼ばれた人物、芥川龍之介はその場にいた人間の誰よりも幼く少年の風貌であった。太宰に声を掛けられて芥川はますます顔と身体を強ばらせる。
「今日の援護はなかなかよかったね。だけど、羅生門の刃のコントロールはまだまだだ。こちらの人間が皆避けられたからよかったものの、あれでは敵味方関係なくなぎ倒してしまう」
ちらりと芥川に視線をやれば、よかったねと言われて緩みかけた表情が続く言葉で硬くなるのが見てとれた。
「も、申し訳ありませぬ」
消え入りそうな声で謝罪を口にする芥川。太宰はふぅと一息ついてから口を開いた。
「まあ、今日は及第点だよ。コントロールについては次の課題だ。それよりもなんだか小腹が空いたな」
太宰はずいと芥川に近づくとすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。
「今日はあまり血に汚れていないようだね。これなら外套を取り替えるだけでいいかな。車に替えがあったよね、着替えて。何か腹に入れて帰ろう」
そう言って歩き出す太宰の後ろを芥川は慌てて追いかけた。

食事をとるといっても時刻は零時を回っていたし、繁華街からは離れた倉庫街に居たので入れるような店は限られてくる。太宰は着替える芥川の横で思案し、あそこにするかと一軒の店を思い浮かべていた。
「できました」と言う芥川に太宰は車を使わず歩くといって先導した。
二十分ほど歩いて着いたのは人通りの少ない小路にある一軒のバー風の店構えであった。

古く重いドアを押し開けると中には十席ほどのスツールが並んだカウンターテーブルがあり、その奥に小柄でややふっくらとした面立ちの女性が立っていた。
彼女は太宰と芥川の姿を認めると「いらっしゃい」と笑顔で迎える。
「こんばんは、マダム」
太宰は女性に向かって挨拶するとテーブルへと歩みを進める。芥川もそれに続き彼の斜め後ろに立った。
「太宰さんお久しぶりね。あら、そちらの方は?」
マダムと呼ばれた店主らしき女性は太宰がスツールに腰掛けるのを見てから芥川に顔を向ける。
「半年程前から面倒を見ている芥川君だよ。芥川君、こちらは首領とも面識のある方で私が大変お世話になっているマダムだ。君もこれから何かとお世話になるだろうから、ご挨拶しなさい」
太宰に言われて芥川は半歩前に出て「芥川龍之介です」と名を告げると頭を下げて礼をした。
「芥川さんておっしゃるの。どうぞおかけになって」
女性店主は微笑んで芥川に席をすすめた。芥川が太宰にちらりと視線を送ると軽く顎が引かれるのを見て取れたので、彼の隣りに着席する。
席についたふたりの前におしぼりとコースターが置かれた。太宰はおしぼりで手を拭きながらマダムに話しかける。
「私にジントニックと、芥川君にはアルコールの入っていないものを。それから何かお腹に入れられるものはないかな。タイミングを逃して夕飯を摂っていないんだ」
「まあ。急に言われても簡単なものしか出せないわよ。そうね、蟹の缶詰と玉子があるから雑炊でもいいかしら」
マダムは呆れたような声を出して、まるで子供に言うように話す。蟹と聞いた太宰が「蟹は少し肴にちょうだい」というのを、やはり子供相手に言うみたいに「はいはい」と答える。
太宰にはジントニック、芥川には烏龍茶の入ったグラスを渡し、蟹の身の入った小鉢とナッツとドライフルーツを乗せた小皿をふたりの前に出すとマダムは「雑炊を用意してくるから」と店の奥に下がっていった。

しばらくすると出汁のいい香りとともにマダムが戻ってきた。持っていた土鍋を台の上に置くとふたりの目の前で椀によそって、れんげと一緒に渡してくれる。柔らかな湯気の下に玉子の黄色と蟹の身の赤が見えた。
「さあ、どうぞ。お口に合うといいのだけれど」
太宰がいただきますとれんげを椀に差し込むのを確認すると、芥川も「いただきます」と呟き手を合わせる。
椀から一匙掬うとふうふうと息を吹きかけ軽く冷ます。二三度繰り返したところで口に含んだ。出汁を吸った玉子と米が甘く口の中に溶けて、蟹の身の塩気が疲れた身体に染みた。

うまい。

芥川は一口目を咀嚼し飲み込むとすぐに次の一匙を掬った。はふはふと忙しなく口を動かし食べ続ける。
ふふふ、という笑い声が聞こえて芥川は顔を上げた。気がつくと太宰もマダムも芥川が夢中になって食べるのを眺めていたようだった。途端に芥川は恥ずかしくなり俯いた。
「あら、気を悪くしたならごめんなさい。気に入ったもらえたようで嬉しくて、つい」
マダムは少し眉を下げて謝罪する。太宰は身体を正面に向き直すと言った。
「芥川君がこんなに一生懸命食べているところも珍しいね。けど、確かにこの雑炊は美味しいよ、マダム」
「それは作った甲斐があったというものね」
にっこりと目尻の皺を深くしてマダムが答える。優しい空気の流れる会話にほっとして芥川は残りの雑炊を口に運ぶ。

雑炊を食べ終わり、新しくお茶を出してもらって腹を休めているとマダムがにこにこと話しかけてきた。
「そういえば、太宰さんが部下の人を連れてきたのははじめてねぇ」
言われた太宰は少しだけ首を捻って「そうだっけ」と答えている。マダムはそうようと続けて言った。
「お友だちだ、っていう方とは何回かいらっしゃってるけど、面倒を見てるなんて人は見かけたことがないわ」
「うーん、まあ芥川君は私が役職について初めての直近の部下になるからねえ。スカウトした手前責任は持たないと、とは思っているよ」
太宰は言うとグラスの中身を口に含む。既に太宰もアルコールではなく烏龍茶を飲んでいる。
「太宰さんが自分でスカウトしてきたの?よほど将来有望なのね」
太宰の答えを受けてマダムは芥川に笑顔を寄越してきた。芥川はマダムにそう言われても、太宰には毎日のように駄目出しをされているのでピンとこない。
「いやぁ、それがね素質はあるようなのだけれど、物覚えはいま一つで教育には難儀しているよ」
太宰も同じようなことを考えていたのかため息まじりの声を出した。それを聞いて芥川は肩を落とすが、太宰の表情には出した台詞程の厳しさは見えない。むしろどこか楽しんでいるような印象すら受ける。
マダムはそんなふたりを見つめて言った。

「芥川さんは太宰さんの紫の上なのね」

次の瞬間、太宰はむせ返りゴホゴホと激しく咳き込んだ。芥川は言われた意味がよくわからないといった風にキョトンとしていたが、すぐに隣りを向き「大丈夫ですか、太宰さん」と咳き込む彼の背中をさすっている。
なんとか咳を止めることが出来た太宰は、微笑みのままこちらを見ているマダムに一言言おうと顔を上げた。
しかし一足先に芥川の方が口を開く。
「紫の上とはなんですか」
問われたマダムは答えるべく芥川の顔を見た。
「あのね、源氏物語という古典作品をご存知かしら。紫の上っていうのは…」
「マダム!あの、まだ源氏物語は教えていなくてですね。芥川君もおいおい古典作品には触れていくから」
太宰は遮るようにらしくない大声を出す。芥川がその勢いに押されて目を丸くしていると、マダムがくすくすと笑い出した。
「そうね、芥川さんの教育は太宰さんがするのですものね。私は控えるわ」
芥川はふたりをきょろきょろと見比べるだけだった。

芥川は何がなんだかわからないまま店を後にして、太宰とともに夜の街を歩いていた。
帰り際マダムは「いつでもいらっしゃいね」と声をかけてくれた。たくさん笑われたような気もするが、悪い感じはしない。むしろあの店に居るときの太宰は年相応に若く、子供のような一面も見られて芥川は得をしたような気持ちになった。
「若紫」
ふと太宰が呟く。数歩後ろを歩いていた芥川は自分に言われたのかと思い、足早に近づいた。
「なんでしょう?」
隣りに立ち見上げると太宰がこちらを見つめ、一度思案するように視線を逸らすと再度目を合わせて言った。
「先ほどのヒントだよ。まだ君は若紫だ」
「わかむらさき…」
復唱してみるが芥川にはその意味がわからない。
「ほら少し急ごう。身体が冷えてしまうよ」
太宰はそう言うと芥川の手をとってまた歩き出した。

« 蓮の華の下で睡る | トップページ | 君の唇に甘露は落ちて »

二次創作」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 若紫:

« 蓮の華の下で睡る | トップページ | 君の唇に甘露は落ちて »