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2016年8月 8日 (月)

水中花

太芥をプールでイチャイチャさせたかったのに、何か違う方向に…
太宰さんがちょっと弱気なので、誰おま状態です。かっこいい太宰さんはいない。

でも、自分ではなんとなく気に入ってます。

水中花

僅かな照明でライトアップされたプールサイドのふたつ並んだデッキチェアの片方に私、太宰治は座っていた。
数十メートル先には洋館を模したホテルが建っており、私が今居るプールはそのホテル付属の施設である。
明日、このホテルは現在のオーナーから新しいオーナーへと売却される。
クラシカルな佇まいには少々アンバランスな飛び込み台が設置されたプールを置いている辺り、持ち主の迷走ぶりが現れていて経営の雲行きが怪しくなるのも頷けるというもの。
まあ、そのおかげで貸し切り状態の恩恵を受けているのだからあれこれ難癖をつけるのはやめておこう。
飛び込み台のあるここのプールは一般的な遊泳用のそれよりも少しだけ深さがあるらしい。
身体にコンクリートブロックを括り付けて入ったら沈んでそのまま死ねるだろうか、などと夜風にさざ波立つ水面を眺めながらそんなことを考えていた。

すると後方に人の気配を感じた。
待ち人が来た。私は知らずうちに口角を上げている。ゆっくりと振り向くと思っていた人物が立っているのを確認した。

「やあ、芥川君」

闇のように暗い外套に身を包み、白い頬と白いブラウスをそこに浮かび上がらせ、闇よりも深い黒の瞳でこちらを見つめている、芥川龍之介。
私の元部下だ。

「太宰さん」

芥川君が私の名を呼ぶ。
困惑と警戒と、隠しきれない喜びを滲ませて。

「悪いね、急に呼び出して。こちらにおいで」

プールから続くホテルの庭の木立の元から動こうとしない彼に手招きをして声を掛ける。一瞬ためらいを見せてから、彼はゆっくりとこちらに向かってきた。プールへと上がる短い階段を昇り、彼は私の元へとやってきて止まった。

「元気だったかい」

笑顔で問えば彼は少しだけ目を丸くして、そしてすぐにはにかんで答えた。

「はい…それで、ご用は何でしょうか」

「うん。実はこのホテルは明日売却されてしまうんだ」

「ええ、存じております」

芥川君が頷く。そうだろうね、新しく買い取るのはポートマフィア傘下の企業だ。その手続きの為に君はこの近くまで来ていたのだから。私はそれを知っていて、君を呼び出したのだから。
しかし今現在、一時停戦中とはいえ敵対する組織に属している間柄だ。お互いの仕事については触れないことが得策。

「それでね、ここのオーナーとはちょっとした縁があって、売却前の今夜だけ貸し切りにしてもらったんだよ。芥川君と水遊びしようと思って」

様子を窺うように私の顔を見ていた芥川君が驚いた表情をした後、だんだん呆れたような顔になっていって、そして言った。

「水遊び、と言われましても、僕水着など持ち合わせておりませぬ」

うん、私言わなかったからね。

「いいじゃない。男同士なんだから、パンツ一丁でも。なんなら、真っ裸でも構わないよ」

態とらしく羽織っていた外套を脱いでみせると、頬をほんのりと染めた芥川君が俯いて呟く。

「僕、真っ裸はちょっと…」

彼が顔を上げないのをいいことにニヤニヤとしていたが、ふと思いついて口に出してみた。

「それとも、服のまま入ってふたりで心中してみる?」

本当にただの思いつきだった。反対や拒絶をされたらすぐに冗談だと言うつもりで、軽い気持ちで口にしていた。
ずっと下を向いていた芥川君は私の台詞にほんの少し肩を揺らすとピタリと固まり、ついで顔を上げてまっすぐ私を見つめてきた。

「太宰さんは、それでよろしいのですか」

恐ろしいほど真剣な眼差しがこちらを捉える。

「太宰さんは僕が心中相手で構わないのですか。僕を心中相手として選んでくださるのでしたら、僕は太宰さんの気持ちに従います」

これは冗談、などと言える雰囲気ではないな。

「うん、一緒に死のう」

私は彼の手を取り、そう答えていた。

外套のベルトとベルトを繋ぎ、お互いの腰に手を回してゆっくりと水に入っていく。水を吸い切らない外套が水面にプカプカと浮かぶが、足下からじわじわと布が水を吸っていくのを感じる。
水を吸うごとに衣服が肌にピッタリと付いてくきて、重く動きにくくなる。
首元まですっかり水に浸かったところで横に並んでいた身体をずらし、正面に向き直った。片手だったのを両手に変えてお互いの身体に回し、抱き合う形を取る。
これから死ぬ、というのに妙に落ち着いた心持ちでいる。
私にしてみれば望んでいたことなのだから、もっと高揚した気持ちになるかと思ったがそうでもないらしい。でも、長い間願っていたことが叶えられるのだ。喜ばしいことだ。
鼻歌でも歌い出しそうな私に気付いたのか、抱き合う芥川君もほんのりと微笑んでいる。

さて、お互いを繋いで入水してみたはいいがどうやって沈んでいこう。丁度よく重しになるものもなかったので、なんとかなるだろうと入ってみたのだが、このままでは沈みそうにない。
お互いがお互いを押さえ込むには、芥川君が遠慮してしまうだろうなぁ、とぼんやり考えて突拍子もないことを思いついてしまった。

「芥川君、キスしよう」

私の首元にすり寄るようにくっついていた芥川君が頭を起こし訊ねる。

「キス、ですか?」

「うん、そう。このままでは水に沈みそうにないから、口づけてお互いにしがみついていたらお互いの重さで沈まないかなぁ…それに、その方が心中っぽいでしょ」

言って笑えば、よく分からないといった表情をしつつも「太宰さんのよいように」という答えを返してきた。
そんな方法で上手くいくのか想像もつかなかったが、試してみるのも悪くない。
水の冷たさに色を無くしつつある唇に口づける。舌を割り入れるとすぐに暖かい舌が絡まってきた。ぎゅうぎゅうときつめに吸い付けばいい感じに息苦しさがやってきて、お互いを抱きしめる腕にも力が入る。
意識を水の底に、底にと移せばなんとなく身体も沈んできた。水の中に頭まですっぽりと浸かれば、お互いの口中でしか息を紡ぐことは出来なくて、それも次第になくなってくるのだろう。
苦しさの先にある快感を思って、悪戯心に今芥川君はどんな表情をしているんだろう、と気になった。最後に彼の顔をきちんと見ておくのも悪くない。

閉じていた瞼を水の重みに逆らうように開けば、揺らぐ視界に恍惚とした芥川君の白い顔が見えた。

見た瞬間、いけない、と思った。

私は咄嗟に唇を離すと急いで水面へと身体を動かした。
さほど沈んでいない筈の距離がとても遠く感じられて、心に焦りが生まれる。私の突然の行動に芥川君も驚いたらしく目を開けてこちらを見てくる。
ざばり、と音を立てて水面に顔を出すとごほごほと咳き込む芥川君の声が耳に入った。私も多少水を飲んだらしく同じように咳き込む。
そんな咳も無視してプールサイドへと芥川君を抱えて泳いでいき、震えてうまく動かない腕で這い上がる。状況が飲み込めないといった芥川君のことも引き上げてきつく抱きしめた。

「だ、ざい、さん…」

咽せる呼吸の合間から必死に私の名前を繋ぐ彼に私はもうほとんど泣いているような声で言った。

「駄目だ、芥川君。君は死んじゃ、駄目だ」

しがみつくように芥川君を強く抱きしめる。反対に彼はがくりと力が抜けたように肩を落とした。

「僕は、貴方の心中相手には、なれませぬか…」

寂しさを含んだ声が耳元で囁く。

「違う。君は…君と私は生きなきゃいけない。まだ、そう、まだ生きなければ…」

もう自分でも何を言っているのか、支離滅裂なことも分からないまま駄目だを繰り返す。
私は泣いているのかもしれない。芥川君の手が優しく私の背中を撫でてくる。

「分かりました、太宰さん。僕は死にませぬ。僕は生きます」

だから、泣かないで…
芥川君の声に私は自分の頬をプールの水とは違う熱い雫で濡らしながら、彼に縋っていた。

君を道連れにする勇気も、君を手放す決意もない私を、どうか、赦して……

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