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2016年8月31日 (水)

豆腐とねぎと、それから玉子

文章練習として、チャレンジ一日一太芥。
裏題→君の作った味噌汁が食べたい

豆腐とねぎと、それから玉子

芥川が眠りから覚めると微かなアルコールの匂いを感じた。隣りでピッタリと身体をくっ付けて眠る太宰から香るのである。
昨夜は太宰のアパートに呼び出されて晩酌に付き合った。下戸の芥川はノンアルコールの缶チューハイだったが、一緒に酒を飲む、というシチュエーションに太宰は珍しく喜びを表に出した。
腰に回された左腕をそっと外して芥川は布団を抜け出す。Tシャツにハーフパンツという普段の外套姿とは真逆の格好を知るものは一緒に暮らす妹と、この部屋の主である太宰だけだ。
太宰の部屋に通うようになった最初の頃は宿泊するにしても、外套を脱いだだけのいつものブラウスと黒のボトムス姿でいたのだが、何度か来るうちに芥川用にとこれらの衣類が用意されていた。
自分の貧相な身体が一部でも露になるような格好は抵抗があったけれど、通常の衣服では落ち着かないと太宰に言われたため、言葉に甘えて軽装で居させてもらっている。

起き出した芥川は台所に立ち、小さなミルクパンを取り出した。
お互い朝食がいるとも思わなかったが、何も腹に入れないのはさすがによくないだろうと味噌汁を作るためである。
ミルクパンに水を入れガスコンロの火にかける。湯が沸くまでの間、味噌汁の具を準備する。これまた小さな冷蔵庫を開けて覗き込むと、昨日の酒の肴にと冷や奴にした豆腐の残りがあった。これと長ねぎを刻んで入れればよいかと取り出す。
同じく冷蔵庫から出汁入りの味噌のパックも手に取った。時間があれば出汁をとって作ってもよいのだが、二人分という少量な上に朝は手早く済ませられる方がよい。
赤い蓋の旨み調味料が好きな太宰にもこの出汁入り味噌は合うらしく、初めて使って作ってみせた時には感嘆の声を上げていた。

豆腐を賽の目に切り、ねぎを刻んでいるうちに小さなミルクパンの中の水はあっという間に沸いた。味噌を溶き入れ、豆腐と長ネギを放り込むと出来上がりだが、なんとなく物足りなさを感じる。
とは言っても男の一人暮らしの家である。芥川が来るようになったからといって特別に材料が増えるものでもない。さして期待もせずにもう一度冷蔵庫を開けると、玉子がひとつだけ玉子ケースに収まっていた。
中華スープに入れると美味しいがはたして味噌汁にも合うのだろうか……芥川は少しだけ考え、悪くなることはないだろうと判断して入れてみることにした。
水切りカゴに伏せられた木製の椀をひとつ取り玉子を割り入れる。箸で軽くかき混ぜると、味噌を入れる際に止めていた火を再び点けた。
味噌汁がふつふつと言い出したところで溶き卵を少しずつ細く注いでいく。玉子の落ちた汁を箸でくるくるとかき回しながら、黄色いふわふわが出来ていく様を見ていた。
玉子が全て注がれたのを確認して芥川はガスコンロの火を止めた。

念のため味見をしておこうとお玉を持ち上げた瞬間背後から二本の腕が伸びてきた。包帯の巻かれたその腕は芥川の細い腰を抱えたかと思うと、次は左肩に重みが載ってきた。
起きてきた太宰が芥川を後ろから抱きしめ、その肩に顎を載せているのである。

「おはよう、芥川君」

寝起きの少し掠れた声で太宰は朝の挨拶を寄越した。
芥川は持ち上げたお玉を一旦置くと、ちょっとだけ首を動かして答えた。

「おはようございます、太宰さん」

「なんかぁ、いい匂いがしたから起きちゃった。味噌汁ぅ」

芥川の首にすりすりと顔を寄せながら太宰が言う。芥川はくすぐったさにほんの少し口元を緩ませながら頷いた。
太宰の頭を肩に載せたまま再度お玉を持ち上げ、傍らに置いてあった椀に味噌汁を一口分掬って口に含んだ。いつもより汁が甘めに感じたが、これはこれで悪くない気がする。

「昨日の残りの豆腐とねぎと、それから溶き卵を入れてみました。なかなかいい気がしますが、いかがですか」

太宰に尋ねるとふーんと鼻を鳴らした音がして、次に「食べる」という返事が聞こえた。
水切りカゴからもう一つの椀を出して二つの椀に味噌汁をよそう。盆の上に箸と味噌汁の入った椀を載せて、未だ抱きついたままの太宰に声を掛けた。

「出来ましたから、向こうで食べましょう」

太宰はのそりと芥川から身体を離すと大きな欠伸をひとつして、先にちゃぶ台に向かって歩き出す。芥川も盆を持ってそれに続いた。
太宰が座ったのを見計らって椀と箸をちゃぶ台の上に並べる。自分の分も並べて芥川は腰を下ろした。
小さく「いただきます」と呟いて二人ほぼ同時に箸をつける。
やはり玉子の分だけ甘さが強い気がする。太宰は気に入らないだろうかとちらりと視線をやって芥川は聞いてみた。

「甘くないですか。お口に合いませんか」

味噌汁を啜っていた太宰は椀から口を離して含んだものを飲み込むと言った。

「ちょっと甘いけど、まあ、悪くないよ」

太宰の言葉に芥川はほっとして自分も食事を続ける。芥川がふわりと口元に笑みを浮かべたのを、太宰は見逃さなかった。

瞬く間に味噌汁を食べ終わり流しに椀と箸を片付けていると、外の階段をカンカンカンと慌ただしく駆け上がってくる音がする。朝から忙しないものもいるものだ、と芥川は思ったがその足音が自分たちのいる部屋の前で止まったから身構えた。
トントントンとドアが軽いノックの音をさせたかと思うと、息を切らしたような聞き覚えのある声が響いた。

「太宰さんっ!居ますか?敦です。国木田さんが、携帯、出ないから、アパート、見てこいって…」

探偵社の中島敦が国木田独歩に命じられて太宰の様子を見にきたらしい。芥川がゆっくりと振り向くと太宰は布団脇に放りっぱなしだった自身の携帯電話を拾い上げ、その画面に表示された着信履歴を見て苦笑していた。
芥川が太宰を見つめたまま固まっていると、彼は唇に立てた人差し指をあてて芥川に部屋の奥へと下がるようジェスチャーした。
頷いた芥川は太宰と入れ替わりに奥へと進み息を潜める。太宰はわざとらしく足音を立てるとドアに向かって返事をした。

「はいはーい。今開けるよ、ちょっと待ってー」

カチャリとドアの開く音がして芥川には二人の会話の声だけが届く。

「あ、太宰さん、いた〜国木田さんがものすごい怒ってますよ!電話に出ないし、折り返しもないからって。もう出社時間過ぎてますよ。今日は朝一で会議があるって昨日言ったじゃないですか〜」

余程慌てていたのかここまで一息である。ゼイゼイという荒い呼吸も聞こえた。

「ああ、ごめんごめん。寝ちゃってた?みたいな。今用意するからちょっと待ってて〜あ、国木田君にはうまいこと言っておいて」

太宰のあくまで能天気を装った声が耳に届く。芥川がドキドキとなる心臓を押さえながら、太宰がこちらに戻ってくるのを待った。
部屋の隅で小さくなっていると太宰が来て耳元で囁いた。

「私は先に出るから、君は時間をずらして出て行きなさい。バタバタして悪かったね。またね」

そう言って芥川の唇に口づけをひとつ落とすと着慣れたコートを羽織って部屋を出ていった。太宰が触れた唇をなぞると芥川も立ち上がり、そろりと音を立てないように出かける準備をはじめた。

探偵社へと向かう道中、国木田に連絡を入れやっと呼吸の落ち着いた敦が太宰に聞いてきた。

「そういえば、太宰さんのお部屋から味噌汁の匂いがしましたね。太宰さんが作ったんですか」

敦の問いに太宰はにっこりと笑顔を向けた。

「私が作るように見えるかい」

敦はしばし考えるといやあ〜と眉を下げる。太宰はにこにことしたままだ。

「え?じゃあ、どなたかが作ってくれた…とか」

「ふふふ…私には味噌汁を作ってくれる女性のひとりやふたり…」

そこまで言って太宰が黙る。敦は不思議そうに首を傾けていた。一瞬ふっと真顔になった太宰だが、すぐに微笑んで独り言のように声を出した。

「いや、私に味噌汁を作ってくれるのはひとりだけだな」

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