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2016年8月 3日 (水)

後遺症

文スト、太芥、学パロです。

pixiv投稿済み。

「出歯亀はよくないな、一年の芥川龍之介君」

壁に背を預けて座っている芥川を見下ろす形で覗きこむ上級生はその顔面に最上級の笑顔を貼付けていた。
上級生の名は三年の太宰治。見目よい容姿と常に上位に名を残す成績と、気に入った女性とに対する口説き文句が「心中しよう」で有名な生徒である。
そんな有名人が二学年も下の自分のことを知っていたことに驚きつつも、芥川は何か返さねばと口を開いた。

「この場に先に来ていたのは僕です。貴方方が後から来て、周りも確かめずに乳繰り合い始めたのではありませんか」

そう先にこの屋上に来ていたのは芥川の方で、人気のないこの場で昼食を摂った後文庫本を読んでいたら満腹感も手伝ってうとうととしてしまった。そこへ太宰がひとりの女生徒を伴ってやってきたかと思うと、芥川の存在に気付かぬまま何やらごそごそとし始めたのである。
人の気配に覚醒した芥川は確かめようと死角になっている位置から身体を動かそうとすると、ちゅ、という吸い付くような音やさわさわとした衣擦れの音がするではないか。まさかと思いながらそうっと顔を出すと太宰と女生徒が口づけを交わしているのが見えた。
女生徒の腕は太宰の首元に回されているし、太宰の手は女生徒の腰や太腿辺りを撫でている。
さっ、と顔を引っ込めた芥川はひたすら息を潜め存在の希釈を試みた。
そうして縮こまり、ただただ時間が過ぎるのを無の境地で待っているとふたりが二言三言言葉を交わすのが聞こえた。かと思うと、階段に続くドアが開かれ立ち去る足音がしたため、ほっと胸を撫で下ろしたところに太宰から先ほどの台詞を掛けられたのである。

居合わせたのは故意ではないと告げると、太宰はふむと頷いた。そしてそのまましゃがみ込み芥川に視線を合わせてきた。

「それは失礼したね。ところで私の相手の顔は見たかな?」

問われて芥川は思い返す。見たと言えば見たと言えるかもしれないが、一瞬であったし見知った顔でもなかった気がする。なので、正直に答えた。

「いえ。一瞬でしたし、知っている方でもなかったと思います」

「本当に?」

「はい」

しっかりと目を見て言えば、太宰は「そう」とだけ呟いた。

「私は男だから見られても構わないけどね、相手の子は見られていたと知ったら恥ずかしいだろうと思って。まあ、すぐに忘れてくれるのならよしとしよう」

太宰の言葉を聞いて芥川は「忘れます。他言はしません」と返事した。相手が再度頷くのを見てこれで終わったのだと芥川が立ち上がろうとすると、太宰がそれを制した。
何だろうと思い彼の人の顔を見ると、にっこりと笑って言った。

「でも、念のため口止め料を払っておこう」

言うや否や太宰の端正な顔が近づいてきて芥川の唇を自身のそれで塞いできた。突然のことに声も出せずに目を見開くと、太宰はそのまま芥川の唇を舌でこじ開け侵入してくる。
んっ、と一呼吸遅れて出てきた声は喉の奥で鳴るだけで、その出口は太宰の口に塞がれっぱなしであった。ぞろり、と口の中をいいように動く舌は最後に芥川の舌に強く巻き付くとするりと出て行った。
は、と息をつけば、相手の唾液に濡れた唇が弧を描いた。

「では、またね」

立ち上がった太宰は呆然とする芥川に手を振り、扉の向こうへと消えていった。



あれから数日が経ち、芥川は表面上はいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
男にキスをされたなど事故だと思えばよい。しかも相手は飄々としていて何を考えているのか凡人には理解の及ばぬ思考の持ち主だ。三年と一年では教室も離れているし、もとより接点のない人間だこの先関わることはないだろうと思っていた。念のため、屋上にはあれから近づいていない。

話は変わるが、芥川は図書委員会に所属している。本が好きなこともあるが、何かとやることのあるこの委員は敬遠されがちでHRの際最後の方で押し付け合いが始まるのを、煩わしいと立候補したのである。
先に言ったとおり本は好きであるし、作業の細かさに慣れればなんということはない。人と話すのが得意ではない芥川だが貸し出し返却業務も最近はほぼ自動化されていて、口頭でのやりとりは必要最小限に留まっている。そして何より図書室という静かな落ち着いた空間は芥川に摂って好ましい環境であった。

そんな心休まる筈の図書室に芥川の心を乱す存在が、今日はいた。
放課後の当番のために移動してきてみれば、カウンターに座っている女生徒に何やら親しげに話しかけている人物は芥川が今最も会いたくない太宰治、その人であった。
芥川は太宰に気付かれぬよう事務室に入りたかったが、彼と話していた女生徒がこちらに気付き指差してきたのである。
太宰もこちらに顔を向けて笑顔を見せると、女生徒に手を上げて礼をして芥川の方へと歩いてきた。

「やあ、芥川君」

芥川のすぐ傍まできて立ち止まり、太宰は声をかけた。上級生にそのようにされては挨拶を返さぬ訳にはいかず芥川は「どうも」と頭を下げる。

「少し時間もらえるかな?」

太宰は首を少し傾けて聞いてくる。芥川は顔色を窺うように相手を見つめ、すぐにきょろきょろと見回してまた太宰へと視線を戻す。

「作業をしながらでもよろしければ…返却本を書架に戻さねばなりませんので」

失礼だとは思ったが自分の仕事をないがしろにすることは出来ない。カウンター脇のカートに積まれた本を見つけて太宰も頷く。

「いいよ」

「では鞄を置いてきますので、少しお待ちください」

芥川は事務室へと向かい鞄を置くと出てきてカートを押しながら図書室の奥へと進んでいった。太宰はそれに続くように歩いている。背表紙に張られた分類票を確認しながら棚に戻していく。ひとつひとつ丁寧に本を滑り込ませる芥川を太宰はにこにことしながら眺めていた。

「それで、ご用件はなんでしょう」

入り口近くのカウンターから大分離れた人気の感じられない奥まった場所に入ったところで、芥川は口を開いた。校内で目立つ人物と話しているところを誰かに見つけられるのを避けたためだったが、これが後に裏目に出ることをこの時の芥川は気付いていない。

「最近屋上で見かけないから、どうしたのかなぁと思って」

太宰は分厚い書籍の詰まった本棚に寄りかかりながら言った。

「あの日はたまたまあそこに行ったのであって、いつもは教室で昼食を摂ります。特に行く用事もなかったので行っていないだけです。あの、ひとつ聞いてもよろしいですか?」

そう言って、最後の一冊を片付けると芥川は太宰と向かい合うように立つ。「なに?」とその先を促してくる太宰に芥川は続けた。

「僕が図書委員であることをご存知だったのですか。それと名前も…」

「うん。私も本はよく読むし、図書室もよく利用しているよ。名前はカウンター後ろの当番表を見てかな」

それで屋上で会ったとき名前を呼ばれたのか、と合点がいった。しかし、わざわざ図書室まで訪ねてくるとは屋上でのことを気にしているのだろうかと思い、芥川は再度口を開く。

「先日のことでしたら、誰にも言っていませんし、これからも言いふらすことはありません。もう僕に用はないと思いますが」

芥川の言葉に太宰は距離を詰めるとまじまじと見つめてきて言った。

「君が軽々しく他者に触れ回るような人間だとは思ってないよ。今日来たのはそのことではなくてね」

そこまで言うと太宰は組んでいた腕をほどき、その手を芥川の頬に滑らしてきた。触れられた芥川が「何を…」と言いかけたところで、先日と同じように太宰の顔が近づき口づけてきたのだ。
驚き固まる芥川に構う様子なく太宰はいいように口内を侵し、舌を絡ませてくる。この前の屋上とは違いすぐ近くには何人という生徒がいて、いつ誰に見られるかも分からないという状況に芥川はパニックを起こすが、気持ちとは裏腹に身体は一向に動こうとしてくれない。
混乱しているうちに自身の顔は太宰の両手にがっちりと抑えられ動かすことが出来ずにいた。太宰の舌の動きに合わせて息をつこうとしているうちに、息苦しさとは違う感覚を芥川の身体は拾っていった。
かくかくと身体が震え足下がふわふわとしてきた。立っているのが心もとなくなってきて、思わず目の前の太宰の身体に縋るように両手をついていた。
それを合図というように太宰の唇がちゅ、と音を立てて離れていき自然と見つめ合う体勢になる。

「うん、これは癖になりそうだ」

太宰は芥川の頬をその手で包み込んだまま呟いた。芥川は何か言いたかったが、ぼんやりとしてうまく頭が働かない。ただ楽しそうにこちらの顔を覗いている瞳を見つめることしか出来なかった。


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