2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

twitter

ねこちか


picture pieces

  • 手作りシュシュ 6
    日々のカケラたち

好きだ!


  • 笑うかのこ様 1 (花とゆめCOMICS)

« 後遺症 | トップページ | 水中花 »

2016年8月 3日 (水)

恋しよう

文スト、太芥、学パロです。
ひとつ前の『後遺症』と連作になってます。

pixiv投稿済み。

自分は流され易い性格などではなかったと思っていたのだが、認識が甘かったのだろうか。
昼休みの今、芥川龍之介は屋上にいて傍らで最近読んだ本について話す太宰治の声に耳を傾けながらそんなことを思った。
先日図書室まで芥川を訪ねてきて二度目の口づけをしてきた太宰は唇を離すと、連絡先を交換しようと持ちかけてきた。何故とも思ったが、其れを口に出す前に太宰は自分の携帯電話を取り出し芥川にも出すようにと促してきた。まるで教え合うのが当然というような太宰の態度に、もうどうこう言っても仕方がない気がしたので芥川は大人しく携帯電話を出した。

それからというもの、今のように昼休みに屋上に呼び出されたり、芥川の当番に合わせて図書室にやってきたり、太宰と時間を共有する機会が増えた。
太宰の持ってくる話題は読んだ本のことや時事について、果ては女子に人気だという流行りの菓子のことまで及んで、一体この人の頭の中にはどれだけの情報が入っているのだと舌を巻いた。
さらに話し方も上手いのか、芥川がそれまで縁のなかったことについても飽きることなく聞いていられたし、興味を持つものも少なくなかった。
成績優秀者の太宰に不得手な科目について教えを請うこともあり、「そんなことも解らないの?」と小馬鹿にしたように揶揄われることもあったが、教え方は仔細で丁寧だった。
なので、奇妙な縁ではあるが状況だけ見ればよい先輩後輩の関係であると言えるだろう。

「なかなか面白かったよ。下巻も読み終わったら貸すから、まずは上巻を持ってきてみた。返すのはいつでもいいから読んでみてよ」

太宰は数日前に購入して読み終わったばかりだという書籍を差し出しながら言った。芥川は礼を言いながら受け取る。すると昼休みの終わりが近づく予鈴の音が響いた。

「ああ、もう移動しないとね。芥川君」

「はい」

呼ばれて顔を上げると太宰の長い指が芥川の頬に触れる。そのままひと撫ですると芥川の顔を支えるように掌を添え、唇に唇を重ねてきた。ちゅ、と軽く音をさせて離れるとにっこり笑った太宰と目が合う。

…そう、これがなければただの先輩と後輩だと言える。
あの日から会うたびに太宰は芥川に口づけをしてきた。ほとんどが今のような触れるだけの軽いものなのだが、三度に一度は舌を絡ませる深い口づけをしてくる。
一、二度ならばお巫山戯で済まそうと思ったが、さすがに続くとどういう意図があるのか疑問に感じてぶつけてみたことがある。
その時の太宰の答えがこうだ。

「好きだから?」

こちらが聞いたのに疑問系で返された。しかも好きだからとは何が、どれが。どう聞けば明確な答えが返ってくるのだろうとぐるぐるしていたら、逆に太宰に問われた。

「芥川君は嫌?」

何を、どれを指して嫌なのか。ますます混乱した芥川がすぐに答えられずにいると、太宰は目を伏せ肩を落として解り易く落胆してみせて「芥川君が嫌なら、やめるけど」と言う。
嫌…なのだろうか。太宰の話は面白いと思うし、話題にのぼるものも興味深い。毎回交わされる口づけに関しても嫌というよりは何故という疑問の方が強いだけで、生理的な嫌悪感もない。
知らず知らずのうちに太宰と過ごす時間を心地よいものと感じていた芥川は、ここで相手に変に機嫌を損なわれるのは避けたいと考えてしまった。そして、言ってしまったのだ。

「いやでは、ないです」

返事を聞いた時の太宰の表情を芥川が目にしていたら今の状況も違っていたかもしれないが、彼は気まずそうに俯いていたので知らなかったのだ。
太宰をよく知る人間が悪魔の笑みだと揶揄する笑顔を浮かべていたことを。

そんなことを思い出しながら太宰の顔を見つめていると「行こうか」と言いながら相手が立ち上がったので、芥川もそれに続いて立ち上がる。
出口へと向かう背中についていけば、「そうだ」と言って太宰が振り向いた。

「芥川君、今日の放課後は空いてる?」

言われて芥川はこの先の予定を思い起こす。今日は委員の仕事もないし、急ぐ用事もない筈だ。

「はい、空いてますが…」

答えると太宰は真正面に向き直って言った。

「それじゃあ、帰りにちょっと付き合って欲しいんだけど」



終業を告げる鐘が鳴ると芥川は級友に帰りの挨拶をして教室を出た。昇降口へと向かう人の波に乗りながら廊下を歩き、太宰との待ち合わせ場所の正門へと足を運んだ。
正門へと近づくとすでに太宰が来ているのが見えたので、少し足早になる。

「すみません。お待たせしましたか」

両手をスラックスのポケットに入れた格好で門柱に寄りかかり人の流れを見ていた太宰の傍らに立つと、芥川は声を掛けた。太宰は芥川に気付くと笑顔で返す。

「いいや。見つかるとうるさい人物がいるから早めに出てきたんだよ」

「そうですか…ところで、どちらにお付き合いすればよろしいので」

「ちょっと買いたいものがあるから駅の方までいいかな」

芥川が頷くと太宰は歩き出した。芥川も続いて歩く。
午後の授業のことや級友のことなどをぽつぽつと話しているうちに駅に着き、太宰は駅ビルの入り口へと向かっていったので、芥川も後を追う。
エスカレーターで紳士服売り場の階に行くと太宰と芥川は綺麗にディスプレイされた中を眺めながら歩いた。
太宰がふと足を止めたので同じように立ち止まるとカーディガンが並べられた陳列棚の前だった。

「このカーディガン、この春に買い替えたんだけどうっかり前のと同じ黒を買ってしまって、違う色にしたかったんだよねぇ」

と今着ている黒のカーディガンを摘んで言った。
太宰と芥川の通う高校は詰め襟の学生服だが、五月の半ばに入ると夏服への移行期間が始まり、学生服着用でも開襟シャツだけでもよいようになる。その移行期間に学生服の変わりに、太宰のようにカーディガンだとかベストやセーターなど、過度に装飾の入ったものでなければ上着代わりに着用してもよいことになっていた。
そう厳しくない校風により式典や全体朝礼に正装していれば、細かく注意されることははいので太宰のような上級生は常に移行期間のような服装をしているものだが。

特にこだわりのない芥川は六月の衣替えになるまで学生服を着用しているが、太宰には思うところがあるらしい。

「では、今日はこちらを買いにきたのですか」

芥川が太宰に訪ねると、彼はサイズを確認しながら答えた。

「うん、色はね決めてあるからあとはサイズだけ…あ、あった」

そう言ってキャメル色の一枚を取り上げると広げてみせる。確かに今の黒より明るい感じがして、太宰に合っているような気がした。
身体にあてて「どうかな」と聞いてくる太宰に芥川は「お似合いです」と返した。

「それはよかった。じゃ、お会計してくるよ」

太宰が売り場奥の会計に進んでいくのを数歩遅れて芥川は付いていった。太宰が女性店員とやり取りしているのをぼんやり眺めていると、「ああ、今着ていくからタグを外してくれるかい」と太宰が言うのを聞いた。
店員から値札の外された商品と、今着ているものを入れていけという意味だろうショッピングバッグを受け取ると太宰は「ちょっと借りるね」と言って試着室へと足を運んでいた。
芥川はその場で待っているつもりだったが太宰に手招きされる。

「芥川君、おいで」

何だろうと思って太宰の居る試着室前に向かう。

「ちょっとこれ持ってて」

言われて太宰の鞄とショッピングバッグを渡される。芥川がそのまま待っていると太宰は試着室のカーテンを開けたまま黒いカーディガンを脱いで、今しがた買ったばかりのキャメル色に袖を通した。着替えが終わると試着室から出てきて、今度は芥川をそこへと押し込む。何事かと思っていると太宰の鞄らと引き換えに、今彼が脱いだばかりの黒のカーディガンを持たされた。
意図が読めず突っ立っていると太宰がにっこりと笑顔で言った。

「芥川君にそれあげる。五月とはいえ、学ランじゃあもう暑いでしょ。まだ其れ程着ていなかったし、付き合ってくれたお礼。着てみてよ」

確かに手にしたカーディガンは多少のしわが見られるだけで、汚れているようにも見えない。お礼をされるようなこともした覚えはないのだが、目の前でにこにことしている先輩に異を唱えるような気も起こらなかったので、大人しく従うことにした。
太宰の時と同じようにカーテンは閉めず、学ランを脱ぐと黒いカーディガンを羽織った。前ボタンをいくつか留めて眺めてみる。芥川より10センチ程身長の高い太宰の着ていたものである、全体的に大きい。裾はともかく袖は明らかに長さがあった。

「僕にはサイズが大きいようなのですが」

振り向き太宰に話しかけてみると、彼は口元を右手で覆い神妙な顔をしている。何か不都合でもあっただろうかと「太宰さん?」と首を傾げてみれば、ハッとしたように太宰が動く。

「ああ、いやいや。サイズね、うん、小さいよりはいいんじゃない。袖だってこうして捲ってしまえば邪魔にならないだろう」

言って太宰は芥川の袖をくるくると巻いて上げてきた。よし、と満足げに頷く太宰を見ていたらこれはこれでいいような気がしてきた。

「あの…ありがとうございます」

芥川が礼を言うと太宰は目を見開いて、そして微笑んだ。

「どういたしまして」

試着室を出て荷物を持つと売り場を後にした。今度は並んで歩き出す。
ふわりと香りが芥川の鼻を掠めるのに気付いて、隣りを歩く太宰に聞いてみた。

「太宰さんは何か香水をつけていますか?」

「ん。ああ、少しだけね。嫌だった?気になるようなら、洗濯すれば匂いは落ちると思うよ」

芥川は鼻をすんと鳴らしてもう一度匂いを嗅いでみる。甘い湧き水のような香りの中に柑橘系のすっきりとした香りも感じられて、嫌いな香りではない。
いつも口づけをされる時に微かに感じた香りはこれだったのか、と合点がいったと同時にその時のことを思い出して少しだけ顔に熱が集まるのを感じる。

「いえ、僕は好きです…」

俯いたままこぼした囁きは太宰に届いたかどうか。
芥川に確かめる勇気はなかったようだが、太宰にはほんの少しだけ色づいた耳を見られただけで十分だった。


君と恋しよう

« 後遺症 | トップページ | 水中花 »

二次創作」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 恋しよう:

« 後遺症 | トップページ | 水中花 »