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2016年9月14日 (水)

雨【浸食】

「雨」をテーマに掌編。
文スト太芥、『後遺症/恋しよう』設定の学パロです。

雨—浸食—

九月の雨は夏の暑さをひとつひとつ落としていくようだ。
雨が好きか嫌いかと聞かれたらどっちだろう。髪の毛のセットに多少影響するくらいで、特に好きも嫌いもない気がするな……太宰治は手にした濃紺色の傘に落ちてくる雨粒の音を聞きながら人気の少ない通学路をひとり歩いていた。
いつもより一時間早い登校時間ということもあるが、太宰の通っている高校はこの辺りではちょっと名の通ったマンモス進学校で、住宅地からも距離があるため電車通学者が多い。
なので、太宰のような徒歩圏内から通学するものはごく限られている。太宰は訳あって近くのマンションに一人暮らしをしているが、それ以外で徒歩通学している者と言えば昔からこの地域に居を構えている家の者がほとんどだ。

そう、例えば太宰の数メートル先を歩く黒い傘を指した人物。
傘から覗く見覚えのあるカーディガンに、太宰は目当ての人物だと確信する。急いでるようにも、かといってのんびりと歩いているようにも見えない、まっすぐ歩いているのにどこかふんわりとした足取りに見えるのは、彼、芥川龍之介の持つ浮世離れしたような雰囲気のせいだろうか。
太宰は口元に笑みを浮かべると前を行く芥川に追いつこうと少しだけ歩く速度を上げた。

「芥川君」

斜め四十五度後ろの辺りから声を掛けると、黒い傘がピクリと揺れて、次いでちょっとだけ傘を持ち上げた芥川の顔が太宰の方を向いた。雨空で翳った肌の色はいつもより青ざめて見えたが、急に声を掛けられて驚いた表情を浮かべる顔に身体の不調を感じさせる色は見えなかったから、本当に影の所為だけだろう。
相手が太宰だと分かると芥川は強ばった顔を緩めた。

「おはようございます、太宰さん」

傘の中で頭を傾けて挨拶をする芥川に、太宰はにっこりと微笑んで「おはよう」と返した。
濃紺色の傘と黒色の傘が並んで歩く。太宰が朝の雨は冷たいだろうと着てきたカーディガンの色はキャメルで、隣りを歩く芥川の黒いカーディガンと色違いだ。というのも、芥川が身に付けているカーディガンは太宰が今着ているものの前に着用していたもので、謂わばお下がりである。戯れに渡してみたものだったが、こうして芥川が身に付けているということは気に入っているということだろう。先輩である太宰に気を遣っているのかもしれないが、それでも夏の間はクローゼットの中で休んでいたであろうカーディガンが、この雨による肌寒さを凌ぐものとして今日という同じ日に羽織ってきたということは、偶然だとしても太宰にとって心の通じ合いを感じさせるいいタイミングだった。

「今日は早いのですね」

芥川が尋ねてきた。

「うん。珍しく早くに目が覚めてね。そのままいつもの時間まで待ってもよかったのだけれど、雨だし余裕を持って出てみようかと。芥川君は委員の当番かい?」

太宰が前から隣りの芥川に目線を移して言った。芥川はそれに頷き口を開いた。

「はい、朝の開館当番で。僕も雨ゆえ早めに出た方がいいかと考えました」

話しながら歩いていると雨脚が強まってきた。傘を打つ雨音も大きくなる。お互いの声を拾おうと自然と間を詰めると傘と傘の先がこつんと当った。つられてふたり同時に顔を見合わせる。しばし無言で見つめ合って言葉を探していると、芥川がそっと呟いた。

「早起きは三文の得、ですね。朝、太宰さんと一緒に登校できました」

ほんのりと唇に笑みを載せる芥川を目にした太宰は自分の傘を車道側に傾けて、自身と芥川の顔を隠した。太宰の顔が近づき影が落ちたことに気がついた芥川がふと顔を上げた瞬間、太宰はその唇に唇で触れた。少し冷えた唇を食むように吸って、舌先でなぞる。口中に舌を割り入れたい衝動を抑えて、そこで唇を離した。
突然の出来事に見開いた目をじっと見つめれば、じわじわと赤みが差してくる頬。戸惑いの中に、それだけではない喜びの気配を見つけて太宰は自分の心が満たされていくのを感じた。
傘がずれた拍子にはみ出た芥川の肩に雨粒が浸みを作っていくのを認めて、そしてそれに気付かぬままこちらを見つめ続けている芥川に微笑んだ。

そう、そうやって私の想いに浸食されていけばいい……

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