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2016年12月27日 (火)

しずかなよるに【太芥】

大遅刻、太芥のクリスマスのお話。クリスマスを外しても冬の太芥として読んでいただければ幸いです。
『HOME SWEET HOME』の新婚太芥設定SS。

しずかなよるに

PM5:30、ポートマフィア本拠地ビル内。
光量を絞られた照明が照らす通路を影のような人物が歩いていた。
時折、コホ……と零れる小さな咳の音に合わせて細い肩が揺れる。
絨毯張りの廊下は硬い革靴の音も立たず、その衣擦れの音さえも吸収してしまいそうだ。
急いでいる様子もなく、かといってのんびりと歩いているようにも見えないその影を後ろから跳ねるように追いかけてきた人影があった。

「アクタガワ、今帰り?」
美しいブロンドの巻き毛をふわふわと淡い光りの中に揺らして、人形のような少女エリスは鈴を転がすような声を掛ける。
掛けられた相手はすっと立ち止まり、幽鬼のごとき静けさで振り向いた。
「エリス嬢」
黒い影、芥川龍之介は相手の名を呼ぶと姿勢を正し一礼する。
芥川が顔を上げると同時にエリスは首を傾げてみせ、再度口を開いた。
「今日はもうお仕事終わりなの?帰るところだった?」
深い緑のベルベッド地のドレスに真っ白なフェイクファーのポンチョを纏ったエリスの姿は、今日という日が何の日かを物語っているようだ。
「はい。今日はもう良いからと首領より終業を仰せつかりましたので、帰途につくところです」
低いがはっきりとした音で芥川は応える。
「ふうん。お疲れさま」
「今宵のお召し物も首領のお見立てで?」
上から下まで上等品と分かるエリスの装いは十中八九彼女を溺愛してやまないこの組織のトップによるものだろう。
「そうよ、リンタロウがどうしても、っていうから仕方なく。だって、これかサンタガールの格好か、どちらか選べって言うのよ!此方の方がいくらかマシなの分かるでしょ!」
腰に手を宛てぷうと頬を膨らました様も可愛らしいこの少女の憤りに、芥川はさもありなんと頷くしかないのであった。
「あ、そうだわ。アクタガワのところに聖ニコラウスはくるかしら」
突然の物言いに少しだけ面食らったが、この少女の予測できない言動には慣れているので芥川は一瞬の沈黙の後応えた。
「どうでしょう……」
彼の口元がほんの少しだけ緩むのをエリスは見逃さなかったが、敢えてそこには触れず、この日お決まりの挨拶を笑顔で贈った。
「Merry Christmas!!」

PM9:25、武装探偵社入居ビル一階喫茶うずまき前。
この日武装探偵社は早じまいをし、降誕祭と称して社員の慰労も兼ねた宴を喫茶うずまきを貸し切って行っていた。
今まで降誕祭にまつわる催しを経験する機会に恵まれなかった新入社員二人は特に喜び、ツリーの飾り付け等の会場準備を言い渡すと同じく準備担当になった先輩社員数名と嬉々として勤しんでいた。
好意で会場を提供してくれたうずまきに誠意を持って応えるべく、後片付けをし終え皆それぞれに家路に向かおうとしているところだった。

「太宰は帰らないのか?」
年少組を寮まで送り届けようとしていた国木田独歩がひとり違う方向へと身体を向ける太宰治に声を掛ける。
既に片足を軽く踏み出して太宰はくるりと振り向くと小さく頷き返した。
「うん、私は少し飲み足りないからね。何処かで酒を調達してから帰るよ」
「それは構わないが、またそこらの川に入水して流れたり、廃ビルに入り込んで首に縄をかけたりするなよ。面倒を増やすようなことはするな」
国木田が眉をひそめて言えば肩を竦めた太宰の姿があった。
「こんな日はね何処へ行っても人だらけだし、むしろ普段は人気がないような場所に集まってきたりするのだよ、カップルとか……そんなところでは自殺も侭ならないし、それに」
「それに?」
聞いても実のある答えが返ってくるとも思わないが、つい国木田は訊ねてしまった。
「私の希望は美人との心中だ」
にっこりと笑顔を作る太宰に呆れた国木田は「もういい……」と手を振った。

「今夜太宰は聖ニコラウスになるのかい?」
太宰と国木田のやり取りを聞いていたのかいないのか分からないが、思わぬところから思わぬ質問が飛んできた。江戸川乱歩である。
「何のことです?乱歩さん」
太宰は笑顔を崩さぬまま返した。乱歩は太宰の顔をしばし見つめ、間に立つ国木田は双方の顔を交互に眺めた。
「いやあ、何でもないよ」
興味を無くしたというよりは最初から無かったかのように乱歩は視線を外すと「おやすみ〜」と背を向けた。
ふっと息を吐いた太宰は片手を上げる。
「じゃあ皆おやすみ」
言って歩き出した太宰の背中を見送りながら国木田は呟いた。
「彼奴は与えるより貰う方だろ」

PM10:15、とあるマンションの最上階にある一室。
ピンポン、と呼び鈴を押して程なくドアの向こうの室内で人の動く気配がする。
カチャリと鍵の外れる音がしてゆっくりとドアが開いた。
「おかえりなさい。そろそろお帰りになられるころだと思っておりました」
中からドアを開けた芥川が迎えの挨拶を寄越す。太宰は玄関へと身体を滑り込ませて後ろ手にドアを閉めた。
「ただいま、芥川君」
手には細身の紙袋を持っている。ちらりと覗く蓋を見るからに日本酒の瓶が入っているのだろう。遅くまで開いているリカーショップで買い求めてきたのだろうか。芥川はちらりとだけ見やって、すぐに入室を促した。

太宰が先になりリビングに入ると炬燵の上に鍋の用意と、菓子椀に盛られた蜜柑があるのを認めた。
持っていた紙袋の手提げを下ろすと後から入ってきた芥川を見る。太宰が脱いだ外套を受け取ってハンガーへと移す芥川の横顔は平素と変わらないが、好きではない蜜柑を眉間に皺を寄せながら菓子椀へと盛りつけている彼を想像して太宰はくすりと笑った。
そのことに気づいた芥川が視線を寄越し「何でしょう?」と言うが、太宰は静かに首を横に振っただけだった。
「今日の鍋は何だい?」
暖められた部屋の中にふわりと出汁の香りが漂っている。
「湯豆腐です。探偵社の宴会でボリュームのあるものを召し上がってきたでしょうから」
外套を仕舞い終えた芥川が猪口と徳利を運びながら言う。
「なるほど……出来た妻だね君は」
太宰は芥川の手から徳利を受け取ると酒瓶の口を開け、徳利へと酒を流し入れた。
「君も付き合い給えよ」
「僕は飲めませぬ」
そうは言いながらも相手は断らないのだと太宰は知っていた。

湯気の立つ土鍋を前に、そこから小鉢へと取り分けた湯豆腐を箸で食べやすい大きさにして口に運ぶ。外気で冷やされ徐々に部屋の温度で温くなる冷酒を舐めるように飲んでいる。
物音と言えば箸が器に当る音、湯豆腐にふうふうと息を吹きかける音など最小限のものばかり。
たまに一言二言言葉を交わす程度だった。
「ここは静かでいいね」
湯豆腐最後の一口を飲み込んだ太宰が柔らかく微笑んだ。然程飲んだ覚えはないが、何だかふわふわとする。
「そうですね……」
太宰よりも先に食べ終わり猪口に残った僅かな酒を唇を濡らすだけの量で運んでいた芥川はとろんとした目で応えた。
眠いんだろうな。太宰は芥川の頬を撫でる。
撫でられた芥川が俯きかけていた顔を上げるとにこにことした太宰と目があった。
「何か良いことでもありましたか?」
暖かい太宰の掌にいつもより暖かく感じる自身の頬を擦り寄せる。
白い毛先が太宰の手の甲に乗ってさらりと零れた。
「静かな夜に」
太宰は両の掌で芥川の頬を包むと身を乗り出し鼻先をつける。
芥川は触れた鼻先を支点に微かに顔を傾けた。
「君とこうして過ごせることが嬉しいよ」

触れた唇の暖かさにそっと囁く。

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